空き巣などの対策として、玄関のドアなどに鍵をかけることは基本的なことです。しかし、鍵がなくてもドアの鍵を開けることはできてしまいます。今回は、鍵がなくてもドアを開けるピッキングについてとその対策、さらにはその他の空き巣対策などについても紹介します。
空き巣の現状と侵入手段
窃盗は犯罪全体からみても、かなり多くの件数が発生しています。中でも空き巣などの侵入犯罪は後を絶ちません。その侵入方法はさまざまです。窓のガラス破りに玄関からのサムターン回り等。そして、2000年には外国人窃盗団による犯行が多く発生し、この時の侵入方法が主にピッキングでした。2000年の窃盗事件の被害件数は全国で2万件を超え、そのうち捕まった窃盗団のアジトにはピッキングの練習用に使った鍵のシリンダーが数多く見つかったそうです。
そもそもピッキングってなに?
ピッキングとは、鍵を使わないで鍵穴に特殊な工具を入れて開ける方法です。よくテレビドラマや映画などで、ヘアピン1つで鍵を開けるシーンがありますが工具1つで鍵を開けることはほとんど不可能といえます。ピッキングというのは基本的に2つの工具を使います。1つは鍵穴に入れてシリンダーを回すための力を加える工具で、もう1つは鍵を開錠するために鍵の中を、ある意味そろえるための工具です。
鍵穴を回す力を加えながら鍵穴の中をそろえることによって、すべてがそろったときにシリンダーが回り、鍵を開けることができます。一見難しそうに思われますが熟練ともなると、玄関の鍵を開錠するのに1分もかかりません。鍵には色々な種類がありますが、どの種類の鍵もシリンダーを回すための力を加えるという点は同じです。かぎ穴の中をそろえる方法がそれぞれの鍵の種類によって異なります。
ピンシリンダーの場合
ピンシリンダーというのは、1848年にアメリカのエール(Yale)という人が発明した錠前で、古代エジプト錠の構造をヒントに考案されたといわれています。鍵穴の中の上部にいくつかのピンが入っていて、鍵を挿すと鍵のでこぼこによってピンが上下に動き、鍵を挿し終えるとピンが所定の位置にとどまり、シリンダーの内筒と外筒が切り離されてシリンダーが回る仕組みです。
このピンシリンダーを鍵ではなくピッキングで開けるにはシリンダーを回す力を加えながら、工具を挿しピンを1つ1つ所定の位置にとどめる必要があります。シリンダーを回す力の加減が非常に難しく、強すぎるとピンが上に止まったままになってしまいますし、弱すぎるとピンが上手い位置でとどまりません。ピンシリンダーのピッキングでの開錠は、微妙な力加減と感覚が必要となります。
ディスクシリンダーの場合
ディスクシリンダーは鍵穴に上向きと下向きのディスクが入っています。上下に鍵山がある鍵を挿してすべて鍵穴に入ると、ディスクの凹みと鍵山が合致してシリンダーが回る仕組みです。ディスクシリンダーの鍵をピッキングで開錠する場合は、ピンシリンダーに比べてシリンダーを回す力の加減が簡単で開きやすくなっています。
しかも、鍵穴の中をそろえるのも工具を一定方向に動かすだけでそろえやすいため、特殊な感覚を身に付けていなくても少しの時間練習すれば、誰にでも開けられます。2000年に外国人窃盗団による多くの犯行は、このタイプの鍵が狙われました。
ディンプルシリンダーの場合
ディンプルシリンダーは鍵穴の上部だけではなく側面にも複数のピンがあります。鍵にも上下と側面に複数の高さの違う凹みがあるのが特徴です。この鍵をピッキングで開けるのは、ピンシリンダーの10倍困難であるといわれるほど難しくなっています。ピンシリンダーと同じくシリンダーを回す力の加減は微妙で、しかもピンが上部だけでなく側面にも複数あるため細かな感覚を掴む必要があるのです。
工具も上部用のピンに対応できるものと側面側にあるピンに対応するものを使いこなさなければなりません。ピッキングで開けるには上部のピンを所定の位置にとどめたあとにシリンダーを回す力を維持したまま工具を交換し、側面のピンに取り掛からなければならず高い技術と絶妙な感覚が必要となります。
ピッキング対策ってどうすればよいの?
ピッキングで玄関の鍵を開錠する場合、多くは玄関の前にひざまずいた体勢でおこないます。そのままの状態で、しかも玄関の前に長い間人がいると怪しいですよね。そのためピッキングによる犯行はおおよそ5分以内とされているのです。対策する側としては5分以内に開けられなければよいということになります。
鍵交換
ピッキング対策として1番効果的なのは、開錠が困難な鍵に交換するということになります。ピッキングに強い鍵というのは、まずは前述したディンプルシリンダーです。ディンプルシリンダーのピッキングによる開錠は鍵のプロフェッショナルでも5分ではほとんど無理だといわれています。また、ディスクシリンダーを進化させたロータリーディスクシリンダーもピッキングに強い鍵といわれています。しかし、ロータリーディスクシリンダーは破錠に弱いといわれていますので、玄関の鍵が1つの場合に、このロータリーディスクシリンダーの鍵に交換することはあまりおすすめしません。
ピッキングされない鍵として、カードキーや暗証番号型の鍵、指紋認証型の鍵もあります。この3つは、そもそも従来の鍵穴が存在しないためにピッキングされることはありません。カードキーは読み取り機の中に磁気情報が記録されていて、その情報と一致するカード型の鍵をとおすと開錠する仕組みとなっています。カードキーにはもう1つ、読み取り機にカードをかざすだけで鍵が開く、非接触キーというタイプもあり、どちらも防犯性は高いといわれています。
暗証番号型の鍵は、あらかじめ設定された番号を再度入力することで鍵が開くシステムです。これも鍵穴がないためにピッキングされる心配はありません。指紋認証型の鍵も同じくあらかじめ登録させたおいた指紋を読み取るので、ピッキングは不可能となり安心です。しかし、カードキーや暗証番号型、指紋認証型の鍵は交換するのに高い費用がかかってしまうのが欠点となっています。
鍵を増やす
鍵交換の他にピッキング対策として、補助錠を付ける方法もあります。ピッキング犯は5分以内に開けられなければあきらめます。例えば、既についている鍵とまったく同じ補助錠を1つ付けたとしても単純に開けるのに時間が2倍かかり、それだけでもピッキング対策になるのです。新しく付ける補助錠にまったく同じものをつけることはありませんので、1つ付けるだけでかなりの対策になります。
その他の対策
新たなピッキング対策としてピッキングアラームというシステムがあります。これは、鍵穴に鍵以外の特殊な工具が入り開けようとすると、振動をキャッチし105デシベルという大音量の警報がなるシステムです。携帯電話への通報も可能なオプションも付いていて、とても便利です。
さらに玄関前にダミーの防犯カメラや人感センサーで光るライト、「防犯カメラ作動中」や「ピッキング強化対策ドア」などのステッカーを見えるところに貼っておくだけでも効果があります。空き巣犯は警戒心が異常に強く、少しでもリスクがある家には入らない傾向があるからです。何もしないよりは、今現在できる対策をするのが得策です。
ピッキング対策だけでは空き巣は防げない?
ここまでピッキング対策を紹介してきましたが、これだけでは空き巣を防ぐことはできません。なぜなら空き巣が家屋に浸入する方法はピッキングだけではなく、むしろそれ以外の方法の方が多いからです。空き巣から家を守るためには次のような対策も必要です。
鍵閉める
鍵を閉めるなんて当たり前で、一体何をいっているのかと思うかもしれません。しかし、信じられないかもしれませんが、実は空き巣などの侵入犯罪での侵入手段として1番多いのが無施錠なのです。これは玄関の鍵だけの話ではありません。例えば、玄関のドアは施錠されていても窓の鍵が施錠されていなく、窓から侵入されるケースもあります。また、玄関のドアの場合もゴミ出しなど数分間の外出でも、その隙に入られて金品を盗んで逃げていくというケースも多々あるのです。
さらに、オートロックがあるマンションでオートロックを過信してしまい、ちょっとの外出ならば大丈夫だろうと玄関のドアを無施錠で出かけてしまい空き巣の被害に遭ってしまうという事例も多くあります。マンションやアパートの上階に住んいでる場合も、上階だからと油断をし、窓の鍵を開けたまま出かけてしまい屋上や屋根からベランダに降りられて侵入されたケースも実際にあります。大切なのはどんなに短い間、例えばゴミ捨ての場合でも玄関と大きな窓の施錠はしっかりしてから外に出ることです。
窓に防犯対策をする
空き巣や侵入犯罪の侵入手段として、無施錠の次に多いのが窓からのガラス破りになります。ガラス破りには「こじ破り」と「打ち破り」、「焼き破り」があります。こじ破りは引違い窓の鍵の部分をドライバーなどで、こじるようにして手が入る程度の穴を開けてから手を入れて窓の鍵を直接開ける方法です。ガラス破りの中で最も多い方法といわれています。
打ち破りは窓のガラスに向かって物を投げたり、ハンマーで窓ガラスを叩き割ったりして建物の中に侵入する方法です。ガラスが割れる音などを気にすることなく、無謀で大体な方法ですが、この方法で侵入する空き巣も多くいます。焼き破りのいうのは言葉のまま窓ガラスをライターなどで焼いて温度を上げたのち、水をかけて急激に冷やして、その温度差を利用してガラスにひびを入れる方法です。音も出ずに高度な技術もいらないので急激に増えて来ているガラス破りの方法となっています。
これらのガラス破りをされないための対策は、まずは防犯ガラスにすることです。普通のガラスの場合はすぐに割られてしまいますが、防犯ガラスにするとそう簡単に割られることはありません。また、防犯ガラスにするには費用がかかり過ぎるという場合は、防犯フィルムという物もあります。これは窓ガラスにフィルムを貼って窓を割られるのを防ぐのですが、注意しなければならないのはフィルムの厚さです。薄いものを貼っても意味がありませんので、厚みが350μ以上のものを貼りましょう。
また、窓の鍵の部分の周りだけフィルムを貼れば大丈夫だと考える人もいるかもしれませんが、貼ったフィルムの周りを割られて終了ですので、フィルムは出来れば窓全体に貼りましょう。空き巣は窓を割って鍵の部分を手で開けて家の中に侵入してきます。したがって窓を割られても鍵を開けられなければ侵入されません。したがって窓の内側に補助錠を付けることも効果があります。ダイヤル付きのものもあり鍵が割られても、そのダイヤルの暗証番号がわからなければ開きませんので、これはかなりの効果をあげます。
サムターン回し対策
サムターンとは玄関の鍵の部屋側にあるつまみです。サムターン回しはドアにドリルなどで穴を開け90度に曲がった細い金属の棒などを入れてつまみを回して玄関を開錠する方法です。また、これにはドアスコープを外側から回して外し、そこから長い針金などを入れて開ける方法もあります。サムターン回し対策は簡単です。市販でサムターン部分につけるカバーが売っていますので、それを購入してつけるだけとなっています。
防犯意識を高め、持ち続ける
空き巣や侵入犯罪を防ぐ対策として1番といって良いほど大切がことは、防犯意識を高めることです。いくらピッキング対策やその他の対策をしても、それで安心して防犯意識が低くなってしまったら意味がありません。また、一時だけ防犯意識を高めても防犯意識がなくなったときに、ドアの施錠を忘れて被害にあってしまうケースが多いのです。防犯意識を高めその意識は常に持ち続けることが必須となります。
まとめ
空き巣を防ぐためには鍵を使わないで簡単に開錠しまうピッキングには、十分に気を付けなければなりませんが、それだけでは空き巣を完全に防ぐことはできません。空き巣に入られると精神的にもショックを受けますし、万が一空き巣犯を出くわしてしまったら生命の危険にさらされる可能性もあります。今できる最大限の対策と防犯意識を持って空き巣やその他の侵入犯罪を防いでいきましょう。